いぐさペーパー

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「いぐさペーパー」は、
広島県東部の備後地域の伝統産業である「備後畳表」に使われるイグサの端材を漉き込んでいます。
伝統を守るために活動されている生産者さんたちの想いを受けて生まれた
アップサイクル・ペーパーです。

信長・秀吉・家康にも献上された高級畳表

広島県東部、福山市とその周辺地域からなる備後(びんご)地域。古くから「イグサ」の栽培が盛んで、高級畳表「備後畳表」が作られてきました。

「備後畳表に関する最古の記録は1347年。
少なくとも室町時代には高品質な“ブランド畳”として認知されていたことがうかがえます」と教えてくれたのは、広島県い業会館の事務局長・北浦浩之さん。備後畳表は織田信長が築いた安土城に用いられたほか、豊臣秀吉、徳川家康にも献上され、現在でも数々の国宝・重要文化財の寺社仏閣に納められています。

備後畳表の製造は昭和時代に全盛期を迎え、1973年には約1300万枚を生産。
しかし、社会の変化によってイグサ農家や畳表の製造業者は激減し、近年の生産量は年間800枚程度に留まっています。そんな備後畳表の歴史と文化を絶やさぬよう、活動している人たちがいます。

紙の画像

備後うまれ、備後そだちのイグサと畳表

 高田圭太郎さんは、備後で数少ないイグサ農家。2018年から尾道市浦崎町で、栽培と畳表の製造に取り組んでいます。栽培品種は、備後地域で古くから根付いている「せとなみ」。11月に6万9千株もの苗を植え付け、翌年7月に収穫します。
 「イグサ栽培ができれば他の作物は何でも作れる」と言われるほど、イグサは繊細な植物。雑草や野生動物に弱く病気にもかかりやすいため、その日の成長状態や天候によって水量や肥料を細やかに管理する必要があります。「刈り取った根元の一握り分だけ白く、あとは天まで均一な緑色。内部はふっくらとしたスポンジ状で、乾燥後も折れずにしなる。それが良いイグサの条件です」と話す高田さんは、一筋縄ではいかないイグサ栽培と並行して畳表づくりも行っています。
 広島県産のイグサだけを使い、備後地域で織り上げられた畳表には【備後うまれ、備後そだち】の証紙が縫い付けられています。この証紙付きの備後畳表を作れるのは今や、自社栽培・自社製造している高田さんのみ。「何百年と続いてきたイグサ文化と備後畳表を後世に残したい」と、今日も挑戦を続けます。

伝統を守りながら、現代に合わせた活動も

 福山市赤坂町に工房を構える岡本祐子さん。畳表の最高級品である「手織中継表(ておりなかつぎおもて)」を継承する職人です。国内唯一の選定保存技術保持者である畳表職人・来山淳平さんの最後の弟子として、90歳を超える師匠が自作した希少な織機で中継表を手織りしています。
 中継表とは、2本のイグサを繋いで織る畳表のこと。イグサの上質な部位を1枚につき7,000~8,000本ほど打ち込むため丈夫で長持ち、かつ足を包み込むようなふくよかさが特徴です。岡本さんが使用するのは、高田圭太郎さんが育てた備後産イグサのみ。「作り手の顔が見えるものを手渡すことで、備後畳表の歴史と文化を未来に繋げたいんです」。
 「上達には経験を積み重ねるしかない」と、真摯に手織中継表の技を磨き続ける岡本さん。「日常生活に気軽に取り入れて、イグサの良さを知ってほしい」との想いから、イグサのアクセサリーや鍋敷き、円座なども制作しています。伝統を守ること、時代に合わせること。岡本さんはその2つを両立しながら、イグサや備後畳表の魅力を若い世代に伝えています。

イグサの魅力を手軽に楽しめる円座

 イグサを円形に編んだ敷物「円座」。福山市沼隈町の佐藤美津子さんは、この道40年以上の円座職人です。イグサの円座は代々、沼隈町菅田地区のみで生産されていました。いつしか作り手は佐藤さん一人になってしまいましたが、近年は「編み方を教えてほしい」と工房を訪ねる20代~80代のお弟子さんたちに技術を伝えています。
 佐藤さんが主に使用する材料もまた、高田圭太郎さんが育てたイグサです。「私もイグサ農家の生まれで栽培が大変なことをよく知っているからこそ、応援したい気持ちがある。白みがかって美しい、備後ならではのイグサを作ってくれている」と目を細めます。
 佐藤さんが生み出す円座は「渦円座」と「とび円座」の2種類。熟練の職人技が生み出す渦巻の力強さや編み目の美しさ、そして耐久性と座り心地の良さから神社仏閣や高級旅館で採用されています。建築様式の変化で畳文化が減少している今、心落ち着く香りや体にしっくり馴染む弾力性といったイグサの魅力を楽しめるアイテムとして、円座が注目を浴びつつあります。

生産者の想いと未来を結ぶ、いぐさペーパー

 『いぐさペーパー』は、備後畳表づくりで生じるイグサの端材から生まれた紙です。高田さんが栽培した備後うまれ、備後そだちの在来種「せとなみ」の端材を漉き込んでいます。イグサの学名はラテン語で「結ぶ」を意味するそうです。700年近くに渡り、備後の人々が誇りをもって作り続けるイグサと備後畳表。『めぐる、手漉紙。』が脈々と受け継がれてきた歴史と文化、生産者さんたちの想いを未来へ“結ぶ”きっかけとなりますように。

備後イグサの端材を手漉き紙に生まれ変わらせてくれたのは、大阪にある就労継続支援B型『紙好き交流センター ひかり』。作業所の利用者さんたちが一枚ずつ、丁寧に漉き込んでくださっています。
イグサの存在感がわかりやすいように荒めに撹拌してから、パルプに混ぜ込んで漉いています。どことなく畳の香りがフワッと漂ってくるような紙に仕上がりました。
原料づくりから紙漉き、検品まで、作業所の皆さんが手作業で担ってくださっています。

いぐさペーパー

【素 材】イグサ+古紙
【厚 さ】0.6 - 0.8mm
【紙漉き】紙好き交流センターひかり